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連載知財コラム

渡邊弁理士の知財よろず研究所

SSIP  誠真IP特許業務法人

弁理士 ジュニアパートナー

渡邊 裕樹 さん

(理学修士)

経歴:東京工業大学大学院

         理工学研究科卒業(物性物理学専攻)

職歴:専門商社に勤務後、大手国内特許事務

   所を経て現職

業務内容:機械・制御・電機分野の特許権、

     著作権が専門

趣味:ギター・ドライブ

 今年度から改正商標法が施行され、新しいタイプの商標(動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標、位置商標)の保護制度が始まった。特に音商標は従来から産業界からの要請が強く、出願件数の多さがメディアで話題になるなど、世間からの関心も高い。これまでサウンドロゴのような音商標は著作物性の有無についても意見が分かれており、著作権法においても十分な保護がなされる状況とは言えなかった。一方、諸外国(ドイツ、イギリス、シンガポール、台湾等)では、すでにサウンドマークとして保護制度が確立されている国もあり、日本でも今回の改正でようやく追いついてきたと言える。 

 

 音商標の出願では、MP3等の音源をCDのような光ディスクに記録した物件を提出することが必須とされている(商標の詳細な説明は任意)。すなわち、音商標の本質は専ら聴覚によって認識される要素であり、外観による評価が可能な一般的な商標とは性質を大きく異にする。そのため、例えば、審査過程における拒絶理由応答や権利行使時の主張・立証では、一般的な商標と同様に、書面上の文言として取り扱わなければならず、説得性のある主張を行うためには様々な工夫が求められる場合も想定される。 

 

 また商標審査基準を見ると、過去の著作権侵害の裁判事例の影響を少なからず受けているようである。例えば音商標を構成する音楽的要素の類否判断に関しては、異なる楽曲間の類似性が問われた記念樹事件(東京高判平成14年9月6日判事1794号3頁)で提示された判断手法の影響が見られる。商標法の保護対象は業務上の信用であるため、創作性を保護する著作権法と単純比較できないが、関連する他法域の知識を活用した実務アプローチも面白いかもしれない。

 

 このように音商標のような新しいタイプの商標は、運用開始から間もないため実績が極めて少ない状況であるが、これから制度がどのように成熟していくのか実務者としても興味深いところである。

第三回 注目される音商標-期待と課題-

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